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後方左が👑 渋谷有利、右が🧙 村田健です。
「祈ってやろう。この先お前が、何一つ忘れることがないように」
過去の記憶を失い、立ち竦む青年が森の中で出逢ったのは、その身
に光を宿す傲慢な男。
闇を纏う自分とは余りに対照的な男の存在に、青年は畏怖とも苛立
ちともつかぬ感情を抱くが……。
眞魔国創成の祖・眞王と大賢者の邂逅を描く『通り過ぎた森の先に』
ほか、渋谷有利と村田健の地球でのエピソード、『故郷㋮』
後日譚など、珠玉の短編を収録した㋮シリーズ外伝第5弾！！
（表紙より）
スマートフォン等で見ていらっしゃる方は
単語を長押ししていただくと
Googleさんの検索機能が反応して
下のほうから画像や
詳しい情報が出てくることがあります。
また下の方から出てこないときは、”ウェブ検索”
をクリックしてください。
気を失っていたのか判らなかった。
ただ、あまり良い状況ではないことだけはすぐに理解で
きた。
背中が痛むが、それ以上に後頭部が猛烈に痛む。
まるで第二の心臓がそこに存在するようだ。
余程強く打ったのだろう。
しかし心配しなければならないのは怪我だけではなかっ
た。
仰向けに倒れた彼の真上には、武器を持った男の顔があ
った。
男は彼の喉元に、長剣の切っ先を突き付けている。
僅かでも動けば、鋭い先端が皮膚を突き破りそうだった
。
火の前には欲の深そうな老人がいた。
妨げるほど垂れている。
しかし飾り立てられた部屋と、身に着けた衣類は庶民と
は思えぬ豪華さで、首からかけた装身具には、それなり
の耕地を買えるだけの価値があった。
長く伸ばした白髪を一房だけ結び、そこにも色とりどり
の宝石を編み込んでいる。
見る者が見れば品の悪さに眉を顰めるだろうが、ここに
来る客くらいは充分に騙せるようだ。
滅多に見ない色が視界を横切った気がして、彼はじっと
目を凝らした。
だが網膜に残る色は二度と現れず、開け放った扉のむこ
うには綻びかけた春の花と、それに群がる蝶や蜂が踊る
ばかりだ。
女が声を掛けた。
・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・
「黒いものが見えたんだ、でもすぐに消えてしまった」
「黒いもの？」
「そう、眼の端っこをチラッと過ぎて、すぐに見えなく
なってしまった」
「ああ、それは先頃陛下の元にいらした、東方のかた
かもしれないわね。
髪と瞳が黒い、珍しい一族だという噂よ。
その方が向こうを通られたのかも」
さて物語も終わりに近付き、僕等は暖かいコンビニを出
て、寒風の真っ直中を小走りで移動した。
バス停のベンチに着くまでは二人とも口をきかない。
眼鏡だいじょうぶか、村田、眼鏡」
「だーいじょーぶ」
掛けていない人間には判るまい、レンズがどんな時に曇
るのか。
・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・
彼は右手で湯気を立てているあんまんの、はみ出た中身
をじっと見詰めた。
黒く艶のある中華風の餡だ。
「で、その長い黒髪の人が、最後なわけ？
最後っていうか、お前の最初なわけ？」
梅雨が明けたと思ったら、途端に猛烈な暑さだ。
た。
渋谷は「ドーナツは一日ひとつだけ、ひとつだけ」と呟
きながら、ショーケースの中を睨んでいる。
・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・
「ふーん。
じゃあ僕は遠慮せずに二個食べよう。
後で僻むなよ？」
「どうぞご自由に！」
わざとらしく口笛でも吹きたそうな顔で、彼は脂肪分の
少なそうなものを選んだ。
どうせすぐ誘惑に負けるくせに。
案の定あっという間にそれを平らげてしまい、渋谷は物
足りなそうにオレンジジュースを掻き回している。
「うーあー、太陽が黄色いー」
は素っ気なく応えた。
一方的に文句を言われた恒星は、もうすぐ中天に差し掛
かろうとしている。
「そりゃそうだ、昼間の太陽が真っ赤に見えたら異常だ
よ」
「ちっがうんだよ、なんか鼻が詰まってて脳味噌まで酸
素が行き渡らなくて、それでぼーっとするような感じな
んだよ。
だから太陽がやけに黄色く見えんの。
ていうかお前、昨日の夜おれが寝てから、こっそりクー
ラー点けただろ！？」
「点けたよ。
暑かったから」
「だーからだよー」
両手を掲げて天を仰ぎ、渋谷有利は大げさに嘆いた。
この世には、信じられないものがいくつもある。
眞王の魂が棲むという空間もそのひとつだ。
もっともこの場所に足を踏み入れられる者は居ないに等
しいし、歪みを通してかの王の姿を見られる者も多くは
いない。
眞王廟の最奥で過ごし、御言葉を聞き、民に伝える役割
を担った言賜巫女でさえ、偉大な王の姿を確かに見分け
ることはできない。
子へと腰を落ち着かせた。
空と大地の風景が消えると、硝子の壁に囲まれていたよ
うな部屋が、不意に色を失って味気なくなった。
彼の力が膨大なものだとはいえ、聖砂国はここから遥か
遠い土地だ。
見霽かすにはそれなりの疲労も伴う。
晴れ、凪。
無事に船に収容されて聖砂国を離れたおれたちは、簡素
だけど居心地の良い船室の小振りなテーブルに置かれた
器を挟んで、食う食わないで議論していた。
中身は水っぽい食糧だ。
所々に粒状の物体が存在するとはいえ、どう見ても病人
食だった。
「ベッドと食事を提供されてるのは有り難いけどね、渋
谷」
ごねているのはおれではなくて村田健だ。
「五日もお粥で生活していたら、助けられる前よりも弱
っちゃうよー」
この先は極秘事項。
ヴォルフラムが報せに来た客とは、五日前に聖砂国で別
れたウェラ―卿だった。
順調な速度ながら穏やかに航行を続ける「うみのおとも
だち」号に、救命艇とも艀とも呼べそうな小舟をつけて
いた。
ギュンター回収。
航海は順調に続き、「うみのおともだち」号をはじめと
する眞魔国船団は、シマロン大陸近海を通過している。
シマロン領は色々な意味で危険な海域だ。
小規模とはいえ商船ではないので、海賊に襲われる心配
はない。
だがシマロン人と魔族は折り合いが悪いので、悪党ばか
りではなく巡視船にも気をつけなければならなかった。
人生が荒れ気味。
「我が国の船団が見えた、迎えだ！」
「お迎え！？」
状況が判ってくるにつれて、喜色満面というヴォルフラ
ムに反しておれは徐々に青ざめていった。
「お迎えって何だよ、誰の？
お前の？」
「何を惚けたことを言っているんだ。
魔王陛下の捜索隊として組織されたんだろうが」
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興味を持って頂けたら是非、お立ち寄りお💖
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疲れているときに是非遊びに来てください。
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是非お立ち寄りお待ちしております。
最後までお読みいただきありがとうございました。
👑眞㋮国より愛をこめて
後方左が👑 渋谷有利、右が🧙 村田健です。
「祈ってやろう。この先お前が、何一つ忘れることがないように」
過去の記憶を失い、立ち竦む青年が森の中で出逢ったのは、その身
に光を宿す傲慢な男。
闇を纏う自分とは余りに対照的な男の存在に、青年は畏怖とも苛立
ちともつかぬ感情を抱くが……。
眞魔国創成の祖・眞王と大賢者の邂逅を描く『通り過ぎた森の先に』
ほか、渋谷有利と村田健の地球でのエピソード、『故郷㋮』
後日譚など、珠玉の短編を収録した㋮シリーズ外伝第5弾！！
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気を失っていたのか判らなかった。
ただ、あまり良い状況ではないことだけはすぐに理解で
きた。
眞㋮国より愛をこめて 通り過ぎた森の先に
身体の下は冷たく固い地面だ。背中が痛むが、それ以上に後頭部が猛烈に痛む。
まるで第二の心臓がそこに存在するようだ。
余程強く打ったのだろう。
しかし心配しなければならないのは怪我だけではなかっ
た。
仰向けに倒れた彼の真上には、武器を持った男の顔があ
った。
男は彼の喉元に、長剣の切っ先を突き付けている。
僅かでも動けば、鋭い先端が皮膚を突き破りそうだった
。
火の前には欲の深そうな老人がいた。
眞㋮国より愛をこめて 界雷
土気色になった顔の皮膚は醜くたるみ、両の瞼は視界を妨げるほど垂れている。
しかし飾り立てられた部屋と、身に着けた衣類は庶民と
は思えぬ豪華さで、首からかけた装身具には、それなり
の耕地を買えるだけの価値があった。
長く伸ばした白髪を一房だけ結び、そこにも色とりどり
の宝石を編み込んでいる。
見る者が見れば品の悪さに眉を顰めるだろうが、ここに
来る客くらいは充分に騙せるようだ。
滅多に見ない色が視界を横切った気がして、彼はじっと
目を凝らした。
だが網膜に残る色は二度と現れず、開け放った扉のむこ
うには綻びかけた春の花と、それに群がる蝶や蜂が踊る
ばかりだ。
眞㋮国より愛をこめて まるであなたの瞳の色
彼の様子に気付いたのか、傍らで忙しく布を広げていた女が声を掛けた。
・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・
「黒いものが見えたんだ、でもすぐに消えてしまった」
「黒いもの？」
「そう、眼の端っこをチラッと過ぎて、すぐに見えなく
なってしまった」
「ああ、それは先頃陛下の元にいらした、東方のかた
かもしれないわね。
髪と瞳が黒い、珍しい一族だという噂よ。
その方が向こうを通られたのかも」
さて物語も終わりに近付き、僕等は暖かいコンビニを出
て、寒風の真っ直中を小走りで移動した。
バス停のベンチに着くまでは二人とも口をきかない。
眞㋮国より愛をこめて 呼んでやらない
「うは、さっむー！眼鏡だいじょうぶか、村田、眼鏡」
「だーいじょーぶ」
掛けていない人間には判るまい、レンズがどんな時に曇
るのか。
・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・
彼は右手で湯気を立てているあんまんの、はみ出た中身
をじっと見詰めた。
黒く艶のある中華風の餡だ。
「で、その長い黒髪の人が、最後なわけ？
最後っていうか、お前の最初なわけ？」
梅雨が明けたと思ったら、途端に猛烈な暑さだ。
眞㋮国より愛をこめて 彼が㋮王に育つまで
僕等は涼しさと水分を求めて、駅からすぐの店に避難した。
渋谷は「ドーナツは一日ひとつだけ、ひとつだけ」と呟
きながら、ショーケースの中を睨んでいる。
・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・・―・―・―・―・
「ふーん。
じゃあ僕は遠慮せずに二個食べよう。
後で僻むなよ？」
「どうぞご自由に！」
わざとらしく口笛でも吹きたそうな顔で、彼は脂肪分の
少なそうなものを選んだ。
どうせすぐ誘惑に負けるくせに。
案の定あっという間にそれを平らげてしまい、渋谷は物
足りなそうにオレンジジュースを掻き回している。
「うーあー、太陽が黄色いー」
眞㋮国より愛をこめて ㋮夏の海は恋の季節
キャップの庇に手を翳し情けない声をだす友人に、村田は素っ気なく応えた。
一方的に文句を言われた恒星は、もうすぐ中天に差し掛
かろうとしている。
「そりゃそうだ、昼間の太陽が真っ赤に見えたら異常だ
よ」
「ちっがうんだよ、なんか鼻が詰まってて脳味噌まで酸
素が行き渡らなくて、それでぼーっとするような感じな
んだよ。
だから太陽がやけに黄色く見えんの。
ていうかお前、昨日の夜おれが寝てから、こっそりクー
ラー点けただろ！？」
「点けたよ。
暑かったから」
「だーからだよー」
両手を掲げて天を仰ぎ、渋谷有利は大げさに嘆いた。
この世には、信じられないものがいくつもある。
眞王の魂が棲むという空間もそのひとつだ。
もっともこの場所に足を踏み入れられる者は居ないに等
しいし、歪みを通してかの王の姿を見られる者も多くは
いない。
眞王廟の最奥で過ごし、御言葉を聞き、民に伝える役割
を担った言賜巫女でさえ、偉大な王の姿を確かに見分け
ることはできない。
眞㋮国より愛をこめて 彼はまだ還らない１
足の下に見えていた大地を消して、男は数歩後退り、椅子へと腰を落ち着かせた。
空と大地の風景が消えると、硝子の壁に囲まれていたよ
うな部屋が、不意に色を失って味気なくなった。
彼の力が膨大なものだとはいえ、聖砂国はここから遥か
遠い土地だ。
見霽かすにはそれなりの疲労も伴う。
眞㋮国より愛をこめて 彼はまだ還らない２
いきなり始める航海日誌、五日目。晴れ、凪。
無事に船に収容されて聖砂国を離れたおれたちは、簡素
だけど居心地の良い船室の小振りなテーブルに置かれた
器を挟んで、食う食わないで議論していた。
中身は水っぽい食糧だ。
所々に粒状の物体が存在するとはいえ、どう見ても病人
食だった。
「ベッドと食事を提供されてるのは有り難いけどね、渋
谷」
ごねているのはおれではなくて村田健だ。
「五日もお粥で生活していたら、助けられる前よりも弱
っちゃうよー」
眞㋮国より愛をこめて 彼はまだ還らない３
いきなり始める航海日誌、五日目、夜。この先は極秘事項。
ヴォルフラムが報せに来た客とは、五日前に聖砂国で別
れたウェラ―卿だった。
順調な速度ながら穏やかに航行を続ける「うみのおとも
だち」号に、救命艇とも艀とも呼べそうな小舟をつけて
いた。
眞㋮国より愛をこめて 彼はまだ還らない４
いきなり始める航海日誌、七日目、晴れ。ギュンター回収。
航海は順調に続き、「うみのおともだち」号をはじめと
する眞魔国船団は、シマロン大陸近海を通過している。
シマロン領は色々な意味で危険な海域だ。
小規模とはいえ商船ではないので、海賊に襲われる心配
はない。
だがシマロン人と魔族は折り合いが悪いので、悪党ばか
りではなく巡視船にも気をつけなければならなかった。
眞㋮国より愛をこめて 彼はまだ還らない５
いきなり始めて後悔必至、七日目、午後。人生が荒れ気味。
「我が国の船団が見えた、迎えだ！」
「お迎え！？」
状況が判ってくるにつれて、喜色満面というヴォルフラ
ムに反しておれは徐々に青ざめていった。
「お迎えって何だよ、誰の？
お前の？」
「何を惚けたことを言っているんだ。
魔王陛下の捜索隊として組織されたんだろうが」
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興味を持って頂けたら是非、お立ち寄りお💖
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最後までお読みいただきありがとうございました。