「こいつは
志が
高えから、
上ばっか見ててさ、
我がもの顔で歩く
はるか視界の下の
浪人の頭なんざ、
目に
入らねぇって
事だ。」
「『はるか視界の
下』などと
武士に対する
侮辱だぞ
俺を
チビ呼ばわり
する気か?」
「よく見な、
背ぇ低いのは
俺も一緒だぜ?
酒の相手なら
してやっても
いいけど、
つまらねぇ
喧嘩は
ご免だよ。
今日って云う日を
ゆっくり過ごし
てえじゃねえか。」
「某
性格に
問題があって…
藩主から
暇を出されて
しまったのも
これが災いして
…人の目が
自分に
向けられるのが
気恥ずかしくて
たまらない。
この江戸で
自らを
鍛え直して、
克服したのちに、
再仕官したいと
思っている。
おぬしは
つまらぬ事と
思うで
ござろうが…」
「…ただ
再仕官したい
って訳じゃ
なかったのか。
俺は
ふらりふらりと
行きたいだけだ。
人の志に
どうのこうのと
云うつもりはねえ、
頑張んな。」
「政、
俺は義賊の
つもりはねぇと
云ったはずだ。
悪事に
絡んでる家を
狙ってるのは
足がつかねえよう
事をうまく
運ばす為、
…近江屋も
結構な腹黒だ。
弱みだけで
ゆすっても
消されるだけ、
人質を
取るだけだと
町方に
届けたりする
家もある。
まあ
商屋相手は時々だ
旗本を狙う
ほうが多い
まず
訴え出ねぇ
からな。
弱みも
いらねえ、
安全な仕事だ。」
「………
弥一殿の
目的は
なんなので…?」
「お前さん
用心棒って
面じゃ
ないなあ。
うちの屋敷の
風呂焚きが
辞めたばかりだ。
どうだ、
給金
はずむが
勤め替え
しないか?
ここで
腹を立てない
所が、
侍とは
思えない
所だ。
八木だ。
名は?」
「……
秋津と申す…」